強い人材を集めるだけでは、強い組織にはならない ― 集団転校後のチーム統合に見る、組織マネジメント ―
揺れた二つの組織はいかに統合していったか
高校駅伝名門校における集団転校という異例の事態は、全国的にもセンセーショナルに報道されました。その当時、転校する側、受け入れる側、当事者の生徒たちはどのような心境だったのでしょうか。
最も大きな影響を受けたのは、恐らく鳥取城北高校に元から在籍していた生徒たちでしょう。駅伝実績を含め現実的に見て、大牟田高校の生徒と鳥取城北高校の生徒では、競技力の差、駅伝に対する意識の差が歴然とありました。
✔ 突然、全国トップレベルの選手たちが同じチームに入ってくる。
✔ 生活も、練習に向き合う空気も変わる。
これまでのチームの雰囲気やあり方が、大きく揺れたとしても不思議ではありません。
晴天の霹靂と言っても過言ではない事態に、在校生の中には当然ながら戸惑いや不安がありました。チームを続けていくのか、それとも別の選択をするのか。チームが一度傾いた時期もあったといいます。
一方で、大牟田から移ってきた選手たちも、決して不安がなかったわけではありません。「新しい練習環境に適応できるか」、「元々いた選手との関係を築けるのか」、「新しい学校生活になじめるのか」・・・。赤池監督に指導を受けたいという決意を胸に、転校を決断した実力ある選手たちであっても、新しい組織に入る側としての不安を抱えていました。
このことは企業や行政の現場にも通じるものがあります。
✔ 外部から優秀な人材が入る。
✔ 組織再編で新しいメンバーが加わる。
✔ 制度や方針が変わる。
そのとき、既存メンバーには不安が生まれ、新加入メンバーにも孤立や戸惑いが生じます。大切なのは、その人材をどう受け入れ、既存メンバーとどう結びつけ、一つの方向へ向かわせるかです。
第3回では、集団転校後の鳥取城北高校駅伝部を題材に、異なる背景を持つ人材をどう統合し、どのように一つのチームをつくっていったのかを考えてみたいと思います。

インタビューでの発言内容から心情を読み解く
では、具体的にはどのように融合していったのでしょうか。
大牟田から移ってきた生徒は寮生活ですが、従来鳥取城北高校の生徒は通学生で、全員が入寮できる訳ではありません。このような中、赤池監督が行った重要な介入は、在校生側と転校生側の双方にリーダーを置いたことです。鳥取城北にもともと在籍していた早田慶哉選手を在校生側のまとめ役に、大牟田から転校してきた宗像琢馬選手を転校生側のまとめ役に。これは、単なる役職の割り振りではありません。異なる文化を持つ二つの集団を一つにするために、それぞれ信頼されるリーダーを置き、両者の間に橋をかけようとしています。
インタビューでの発言内容からは生徒たちの素直な思いや状況を、そして、新天地において赤池監督がどういうスタンスだったのかも垣間見ることができます。また、毎日新聞の記事(2025/12/19・WEB)を読むと、それぞれの率直な思いが語られています。


想像するに、赤池監督は、「実力の差」や慣れ親しんだ「一緒についてきてくれた生徒」であることで特別扱いすることはしませんでした。「大牟田組」「鳥取城北組」と分けず、生活面・人間性・チーム意識という共通基準で再統合しています。2026年6月の本レポート(タイトル:「速い選手」ではなく「強い人間」を育てる)内で紹介した通り、大牟田高校で厳しく取り組んでいた日常生活での姿勢、つまり「挨拶・素直さ・謙虚さ・仲間意識・感謝の気持ち・マナー礼儀・正直さ・人としての尊重」を、新天地においても一貫してブレずに共通基準として示しており、それがインタビューの発言に表れているように感じます。特に元々鳥取城北の生徒の発言に注目すると、状況が目に浮かびます。
これが、企業や組織で言えば、組織統合時の共通バリューづくりと言えます。
駅伝部の統合から企業・行政が学べること
赤池監督のチーム統合で特徴的だったのは、ダブル主将制とブレない共通基準。
企業や組織に置き換えて考えると、『異なる背景を持つ人材を一つにするには、共通の価値観と、納得できる基準が必要である』、ということです。
「外部から優秀な人材が入ってくる」、「新しい上司が着任する」、「組織再編によって、異なる文化を持つ人たちが同じ部署で働くことになる」。こうした場面では、表面上は「戦力が増えた」「組織が強くなる」と見える一方で、現場には不安や戸惑いが生まれやすいのは事実です。
既存メンバーは、自分たちの立場や役割が変わることに不安を感じる。新しく入ってきたメンバーも、組織になじめるのか、力を発揮できるのかという不安を抱えている。つまり、組織統合とは、単に人を増やすことではなく、異なる背景を持つ人たちを一つの方向に向かわせる取り組みであると言えます。

企業や組織においても、優秀な人材を採用すれば自然に組織が強くなるわけではありません。むしろ、優秀な人材が入るほど、既存メンバーとの間に緊張や不調和が生まれることもあり得ることです。そのときに必要なのは、新しく入ってきた人材だけを特別扱いすることでも、既存メンバーの不安だけに寄り添うことでもありません。双方の不安を理解しながら、組織として何を大切にするのか、どのような行動を求めるのかを明確にすることです。
つまり、組織統合で問われるのは、「誰が優秀か」ではなく、「全員が同じ方向を向けるか」です。
そのためには、既存メンバーには変化の意味を説明し、新加入メンバーには安心して力を発揮できる関係性をつくる必要があります。そして、出身や経歴に関係なく、同じ基準で評価される状態をつくることがとても重要になってきます。
駅伝部の統合から学べるのは、強い人材を集めることと、強い組織をつくることは別であるということ。しかし、乗り越えたその先には強い個と強い組織ができあがるようです。
人材を集めることが採用であり、人材を一つにすることがマネジメントである。
インタビューの中で多くの生徒が語っていた目標が「都大路」。赤池監督率いる鳥取城北は、2025年の始まりから混乱・決意・不安を乗り越え、2025年12月の全国高校駅伝大会(通称都大路)で第4位の好成績でフィニッシュ。
一方、残念ながら2025年の大牟田高校は、都大路への出場は叶いませんでした。
さて、2026年の全国高校駅伝大会に向けて、この秋まもなく県大会が始まろうとしています。今年はどうなるでしょうか。