強い人材を集めるだけでは、強い組織にはならない       ― 集団転校後のチーム統合に見る、組織マネジメント ―

揺れた二つの組織はいかに統合していったか

●参考:駅伝実績比較

インタビューでの発言内容から心情を読み解く

 では、具体的にはどのように融合していったのでしょうか。
 大牟田から移ってきた生徒は寮生活ですが、従来鳥取城北高校の生徒は通学生で、全員が入寮できる訳ではありません。このような中、赤池監督が行った重要な介入は、在校生側と転校生側の双方にリーダーを置いたことです。鳥取城北にもともと在籍していた早田慶哉選手を在校生側のまとめ役に、大牟田から転校してきた宗像琢馬選手を転校生側のまとめ役に。これは、単なる役職の割り振りではありません。異なる文化を持つ二つの集団を一つにするために、それぞれ信頼されるリーダーを置き、両者の間に橋をかけようとしています。
 インタビューでの発言内容からは生徒たちの素直な思いや状況を、そして、新天地において赤池監督がどういうスタンスだったのかも垣間見ることができます。また、毎日新聞の記事(2025/12/19・WEB)を読むと、それぞれの率直な思いが語られています。

●大牟田から集団転校の鳥取城北 ワンチームで県勢初の優勝目指す | 毎日新聞,2025/12/19
●インタビュー(抜粋)※インタビュー当時(2026年3月)の学年

 想像するに、赤池監督は、「実力の差」や慣れ親しんだ「一緒についてきてくれた生徒」であることで特別扱いすることはしませんでした。「大牟田組」「鳥取城北組」と分けず、生活面・人間性・チーム意識という共通基準で再統合しています。2026年6月の本レポート(タイトル:「速い選手」ではなく「強い人間」を育てる)内で紹介した通り、大牟田高校で厳しく取り組んでいた日常生活での姿勢、つまり「挨拶・素直さ・謙虚さ・仲間意識・感謝の気持ち・マナー礼儀・正直さ・人としての尊重」を、新天地においても一貫してブレずに共通基準として示しており、それがインタビューの発言に表れているように感じます。特に元々鳥取城北の生徒の発言に注目すると、状況が目に浮かびます。

これが、企業や組織で言えば、組織統合時の共通バリューづくりと言えます。

駅伝部の統合から企業・行政が学べること

 赤池監督のチーム統合で特徴的だったのは、ダブル主将制とブレない共通基準。
企業や組織に置き換えて考えると、『異なる背景を持つ人材を一つにするには、共通の価値観と、納得できる基準が必要である』、ということです。
「外部から優秀な人材が入ってくる」、「新しい上司が着任する」、「組織再編によって、異なる文化を持つ人たちが同じ部署で働くことになる」。こうした場面では、表面上は「戦力が増えた」「組織が強くなる」と見える一方で、現場には不安や戸惑いが生まれやすいのは事実です。
既存メンバーは、自分たちの立場や役割が変わることに不安を感じる。新しく入ってきたメンバーも、組織になじめるのか、力を発揮できるのかという不安を抱えている。つまり、組織統合とは、単に人を増やすことではなく、異なる背景を持つ人たちを一つの方向に向かわせる取り組みであると言えます。

 企業や組織においても、優秀な人材を採用すれば自然に組織が強くなるわけではありません。むしろ、優秀な人材が入るほど、既存メンバーとの間に緊張や不調和が生まれることもあり得ることです。そのときに必要なのは、新しく入ってきた人材だけを特別扱いすることでも、既存メンバーの不安だけに寄り添うことでもありません。双方の不安を理解しながら、組織として何を大切にするのか、どのような行動を求めるのかを明確にすることです。
つまり、組織統合で問われるのは、「誰が優秀か」ではなく、「全員が同じ方向を向けるか」です。
 そのためには、既存メンバーには変化の意味を説明し、新加入メンバーには安心して力を発揮できる関係性をつくる必要があります。そして、出身や経歴に関係なく、同じ基準で評価される状態をつくることがとても重要になってきます。
 駅伝部の統合から学べるのは、強い人材を集めることと、強い組織をつくることは別であるということ。しかし、乗り越えたその先には強い個と強い組織ができあがるようです。

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