「速い選手」ではなく「強い人間」を育てる            ― 赤池健監督の人間育成型指導に見る、マネジメントの本質 ―

はじめに

「速い選手」ではなく「強い人間」を育てる

 赤池監督で特徴的なのは、単に「速い選手」を育てるのではなく、苦しい場面で自分に勝てる“強い選手”を育てることを重視していることです。

 長距離走は、単なる走力だけでなく、駆け引きや粘り、そして自分自身との闘いが求められる競技です。特に駅伝競技では、苦しい場面で粘れるか、自分に負けずに走り切れるか、に加えて、仲間のために力を出し切れるかが問われる競技。 

 だからこそ赤池監督は、速さよりも「強さ」を重視しています。ここでいう強さとは、タイムだけではありません。自分を律する力、苦しい場面で逃げない力、自分に勝てる選手のことを指します。そして、『競技力の土台には、日々の生活態度や人間性がある』と考えのもと、指導では次の点を大切にしています。

 一言でまとめるなら、

という指導方針です。

競技力以前に、日常生活の姿勢を重視

 赤池監督の指導では、競技力以前に、日常生活の姿勢を大切にしています。長距離走は自分自身と向き合う競技であり、苦しい場面で踏ん張れる精神力は、練習中だけでなく、普段の生活の中で育つという考えのもと、生活面では次のような基本を徹底しています。

項 目内 容
挨拶相手に敬意を示し、自分から気持ちよく挨拶する。
素直さ指導や助言を受け止め、自分の成長につなげる。
謙虚さ結果におごらず、周囲への感謝を忘れない。
仲間意識一人ではなく、チームの一員として行動する。
感謝の気持ち家族、仲間、支えてくれる人への感謝を持つ。
マナー・礼儀言葉遣い、整理整頓、靴をそろえる、食事作法、物を大切にするなど、日常の所作を整える。
正直さ嘘は許さない。社会に出て信用を失う行為だからこそ、正直であることを重視する。
人としての尊重タイムの速い遅いで人の価値を決めない。 選手間に優劣をつけず、一人ひとりを大切にする。

 赤池監督及び生徒へのインタビューを通じて、はじめに感じたことは、「日常生活の姿勢」に対する規律性の厳しさです。生徒自身も「厳しい」と発言しています。中には、一見競技とは直接関係がないように思える行動も重視しています。しかしながら、赤池監督就任後に寮生活を始めた、元々鳥取城北高校の生徒も同じように規律を守って生活しています。昨今の若手世代には最も敬遠されうる、このように厳しい指導が、なぜ生徒に受け入れられたのでしょうか。

赤池監督・指導方法の特徴

 赤池監督が日ごろどのように生徒に接しているのか、生徒の発言から推察できます。それは、赤池監督が挨拶や礼儀、生活習慣、感謝の気持ちを大切にし、それらを単なるルールとして押しつけるのではなく、「なぜ必要なのか」を一つひとつ説明していた、ということが伺えます。一つひとつの行動に理由を説明し、「だからやるんだ」と、生徒が納得できるように伝えているという点が若い生徒にも厳しい規律が受け入れられた要因の一つだと考えられます。

 この言葉に、赤池監督の指導の本質が表れています。人は、命令されたから動くのではありません。「意味を理解し、納得したときに、自ら行動を変える。」そんなことが体現できているのです。

 たとえば、挨拶については、単に「挨拶しなさい」ではなく、「挨拶は第一印象をつくる」、「人間関係をつくる入口になる」というように、社会生活や人との関係に結びつけて教えています。生活習慣についても、「競技のために必要だから」だけではなく、「人としての基盤になる」「社会に出て信用される人間になるため」というところまで意味づけしています。だから生徒側も、表面的なルールとしてではなく、自分の成長に必要なこととして受け止めているように見えます。生徒に「人間として成長している」という実感を与える指導は、単なる「競技指導」ではなく、「競技を通じた人格形成型の指導」とも言えます。

特 徴生徒の発言から見えること
理由を説明して納得させる指導「なんでそうしなければならないのかも教えてくれる」という発言から、生活習慣や礼儀を形式的に押しつけるのではなく、意味づけして伝えていることが分かる。
競技と生活を切り離さない指導「生活面、人としての基盤を教わる。その基盤の上に陸上がある」という発言から、陸上の結果だけを追うのではなく、生活・人間性を競技力の土台として教えている。
結果より成長を重視する指導「一つの結果で一喜一憂しない」という発言から、タイムや順位だけで評価せず、長期的な成長や姿勢を見ていることがうかがえる
自立を促す指導「他責任ではなく、自分から積極的にやっていくことの大切さ」という発言から、受け身ではなく、自分で考えて行動する選手に育てようとしている
社会に出た後まで見据えた指導「社会に出てから役に立つこと」「人間として成長できた」という発言から、高校駅伝のためだけでなく、卒業後も通用する人間形成を意識している
人との関わり方を教える指導「あいさつは第一印象、人間関係作り」「思いやり、人に親切にする、気を配る」という発言から、チーム内外で信頼される態度を重視している
上から抑えつけるより、内面に落とし込む指導生徒が「やらされている」ではなく、「大切さを教わった」と表現しているため、行動の意味を本人の中に定着させる接し方をしていると考えられる

 この指導方法は、企業や行政の人材育成にも通じるのではないでしょうか。挨拶、報告、時間管理、整理整頓、約束を守ること。これらは社会人としてはごく当たり前の基本的な行動に見えますが、組織で信頼される人材になるための土台です。それは、やって然るべきと捉えている多くの先輩社会人がいる一方、昨今は「なぜ挨拶をしなければいけないのか?」、「なぜこの仕事を私がやるのか?」などと、疑問を投げかける新入社員は少なくないようです。単に「ジェネレーションギャップだね」で終わらせてしまうのか、「決まりだからやれ」と伝えるのか、「なぜそれが信頼につながるのか」まで説明するのかで、大きく違います。

 今回、生徒たちの言葉を手がかりに、赤池監督がどのように人を育て、なぜ選手たちがその指導についていったのかを考察しました。次号では、厳しさはどこで不適切指導に変化するのか、考えていきたいと思います。

SNSでシェアする

コラム

合わせて読む

資料請求

具体的な画面イメージや料金体系、
サンプルシステムの利用URL・
パスワードをお送りします。

資料

ご記入後資料請求ボタンを押すと、
お客様のメールアドレス宛に
資料をお送りさせていただきます。

    プライバシーポリシー

    当社は、お客様からお預かりした個人情報を保護するため、個人情報に関する法令及びその他の規範を遵守いたします。
    基本方針
    当社がお客様より取得した個人情報は適切に管理し、関係する法規制 を遵守いたします。そのために個人情報保護管理の体制と手順を整え、当社及び関連する要員に教育訓練を行い、この仕組みを 継続的に改善し続けます。
    個人情報の利用目的
    「お客様情報」は、当社が行うお客様へのお見積り、及び御注文確認、サービスや商品の提供、ご請求の対応、アフターフォロー、当社からの情報提供に利用いたします。お客様からお預りした個人情報は、お客様からご依頼いただいた業務のみに利用いたします。
    個人情報の開示
    当社では、お客様の同意なく、個人情報を、以下の場合を除き第三者に開示、提供することはありません。 ●警察・公安委員会など所轄官公署からの令状を行使した要請 ●その他法律に基づく要請を受け、当社とお客様の権利、財産、安全を保護するため、情報の開示が必要不可欠と認められた場合には、個人情報を開示することがあります
    【Googleアナリティクスの使用について】 当サイトでは、より良いサービスの提供、またユーザビリティの向上のため、Googleアナリティクスを使用し、当サイトの利用状況などのデータ収集及び解析を行っております。 その際、「Cookie」を通じて、Googleがお客様のIPアドレスなどの情報を収集する場合がありますが、「Cookie」で収集される情報は個人を特定できるものではありません。 収集されたデータはGoogleのプライバシーポリシーにおいて管理されます。 この機能はCookieを無効にすることで収集を拒否することが出来ますので、お使いのブラウザの設定をご確認ください。
    個人情報管理責任者
    当社の個人情報管理責任者は下記の通りです。
    株式会社アンビシャス 代表者 月橋 一浩